POSから「All in Restaurant Cloud.」 へ:ダイニーCEO山田氏が語る成長戦略
こちらは、2024年9月27日にGCP House内で配信したPodcastの書き起こし・一部編集した記事となります。
GCP阿部)今回はシリーズBの資金調達をリリースしたダイニーのCEO山田さんをお迎えして、弊社担当キャピタリストの野本と一緒に今後の成長戦略をお話頂きます。山田さんから自己紹介とダイニーの事業概要を簡単にご説明をお願いします。
山田氏)ダイニーの代表の山田と申します。ダイニーはAll in Restaurant Cloud.として、日本の飲食業界に向けて、飲食業界に必要なソフトウェアを全て作る会社になってます。
もちろんその日本の飲食業界にフォーカスしていますが、ゆくゆくはしっかりと世界にも出ていこうという話はしてます。足元は日本の25兆円っていう大きな外食産業とそれから400万人以上が働いているっていう従業員の皆様に向けて、我々がありとあらゆるサービスを出して課題を解決をしていけたらなと思っております。
ダイニーはPOSからスタートしましたが、皆さんが飲食店に行ったらよくあるような、例えばモバイルオーダーや、そのモバイルオーダーを経由してCRM、決済、従業員向けの勤怠管理、評価管理とかあらゆる方向にプロダクトを作っております。
GCP阿部)私も飲食店でよくダイニーを使うことがあり、嬉しくなって野本さんに連絡したりしていますが、最近すごく使える店舗さんも増えてきましたよね。
GCP野本)いちいち使用報告できなくなるくらいに普及させたいですね(笑)。
GCP阿部)我々との関係で言えば、初回投資はいつだったでしょうか。
GCP野本)2021年5月です。当時から、今でいう「コンパウンドスタートアップ」のような考え方を持っていましたね。
山田氏)そうですね。2021年当時から、飲食業界に特化し、その業界のあらゆる課題を解決すると言っていました。
GCP阿部)最初はグロービス・キャピタル・パートナーズとの出会いがあったと思いますが、当時の印象はいかがでしたか。
山田氏)当時の印象は今と変わりません。「質実剛健」という言葉がぴったりくる、非常にしっかりしたファンドだと思いました。野本さんに限らず、GCPのキャピタリストのみなさんは、夢想家でありながら現実的で、そのバランスが取れているという印象です。
GCP野本)ありがたい言葉ですね。
GCP阿部)野本さんは当時の山田さんの印象を覚えてますか。
GCP野本)言葉で表現するのは難しいですが、有言実行でやり切りそう、というオーラや覇気を感じました。様々なピボットを経て、POSから取り組むのが勝ち筋として間違いないという確信が体から滲み出ていたのだと思います。POSからスタートして事業をコンパウンド的に拡大していくという戦略も極めて合理的だと思い、積極的に投資させていただきました。当時を振り返って、資金調達に苦労はありましたか。
山田氏)どちらかというと、その当時の私たちは、社会人としての経験もあまりない状態でした。Co-Founderも同じく大学の友達だったので、いわゆる「大人っぽい大人」みたいな人が社内にあまりいませんでした。
一方で、「飲食業界」という響きだけで言うと、ある程度の大人力が必要だとか、営業組織を作っていかないといけないとか、そういうイメージや先入観がすごく強かったんです。それは御社からも言われましたし、いろんなVCさんからも指摘されました。
実際、多くのVCさんから「これは大人のマーケットで、逆に君たちのようなキャリアの人が頑張るマーケットじゃないよ」みたいなことをすごく言われました。
「君たちみたいなキャリアなら、例えば大学生に近い年齢層向けのtoCサービスを考えたり、もっと新しいことをやった方がいいんじゃない?」とか、「飲食ってすごい大人の力が必要だよ、営業の力が必要だよ」みたいなことを散々言われた記憶が当時はありますね。
GCP阿部)なるほど。当時何歳でいらっしゃったんですか。
山田氏)たしか26歳頃でしょうか。
GCP野本)ファウンダーマーケットフィットという概念は多くの人に支持されていますが、常識破りな事業をつくるという観点においては、私は懐疑的です。理由は、既存の業界にフィットしすぎると、その価値観や方法にプロダクトや経営そのものを合わせ込んでしまう可能性があるからです。そうすると、革新的なことを実現するのが難しくなります。
変革を起こすのは「よそ者、若者、ばか者」という言葉があるように、業界の常識にとらわれない視点が重要だと考えています。一方で、ファウンダーがビジネスモデルにフィットしていることは非常に大切です。ダイニーの場合、山田さんがプロダクト開発の天才です。プロダクトドリブンで市場を切り開いていくというのが、ダイニーのファウンダービジネスモデルフィットだと考えています。
また、当時を振り返ると、POSシステムへのスタートアップの参入は難しいというアドバイスをもらったことを覚えています。NECや東芝テックなどの大手企業が強すぎるため、POSシステムの入れ替えは困難で、スタートアップは彼らとAPI連携する方が勝算があるという意見でした。多くの人からそういった助言をいただきましたが、自分の直観と仮説を信じて進めることにしました(笑)。
山田氏)実は、2018年頃から私たちはPOSシステム開発について様々な意見を聞いてきました。POSは1970年代から存在し、30年から40年の積み重ねの上に現在のシステムがあります。そのため、スタートアップがこの歴史を超越できるのか、という疑問がよく投げかけられました。また、技術的に超越できたとしても、もう一つの大きな課題がありました。それは、飲食店の気持ちです。既に深くオペレーションに組み込まれているシステムを本当に置き換えられるのか、という点です。
確かに、論理的に考えると、これらの懸念は理解できます。しかし、逆説的ですが、これは私たちにとって好機でした。なぜなら、多くの人たちがこれらの理由でPOS開発を避けたからです。
その結果、私たちのような「気合と根性で頑張る」タイプの人間が参入できる余地が生まれました。いわば、ブルーオーシャンと呼べる状況でした。ダイニーとしても、まずはその気合と根性でPOSを作ることに集中しました。
今振り返ってみると、この意思決定は正解だったと確信しています。
GCP阿部)当時GCPとしては、シード投資にあたりますか。
GCP野本)そうですね。当時MRR200万円とかでしたよね。そこからトラクションは何十倍にも伸びて、今回のラウンドでBessemer Venture PartnersとHillhouse Investment Managementが共同リードとして加わりました。
3つのターニングポイントが導いた飛躍
GCP阿部)ここまで来る道のりで、特にやっぱここターニングポイントだったなとか、グロースポイントはあるんですか。
山田氏)振り返ると、ダイニーには三つの大きなターニングポイントがありました。
一つ目はコロナの影響です。コロナ前、ダイニーのやり方は今とあまり変わりませんでしたが、飲食業界での受け入れはかなり微妙でした。「飲食はテクノロジーじゃない」というフィードバックをよく受け、なかなか浸透しませんでした。
消費者側も、飲食店でのテクノロジー活用といえば、iPadでの注文や予約システムぐらいしかありませんでした。しかし、コロナをきっかけに状況が一変しました。飲食店側もテクノロジーを積極的に取り入れるようになり、消費者も店内外でテクノロジーを使うことが当たり前になりました。これが一つ目のターニングポイントです。
二つ目は、業界に本格的に入り込めたことです。これには二つの要因があります。
まず、飲食業界のオピニオンリーダーたちからエンジェル投資を受けたことです。私たちはこれを「エンジェルリードグロース」と呼んでいます。こういった先進的なサービスは、業界のリーダーたちが使って良いと広めてくれることで、初めて受け入れられていきます。実際に彼らの店舗で導入し、有料で使ってもらい、周りに勧めてもらえたことが大きな転機となりました。
次に、現在の営業チームトップである益子さんの採用です。これは本当に大きな出来事でした。以前お話しした通り、当時は「大人っぽい大人」があまりいなかったのですが、彼が入社したおかげで、飲食業界からちゃんとした会社として見てもらえるようになりました。彼は前職でCEOとして年間経常収益(ARR)を30億円まで伸ばした実績があり、飲食業界のことをよく理解しています。若い創業者チームとバランスを取りながら、業界での信頼を築いてくれました。ARRが1億から2億円に成長したのは、ほぼ彼のおかげと言えます。
三つ目のターニングポイントは、あまり言いたくはないのですが、2022年の夏に起きた大きなシステムトラブル(インシデント)です。当時は本当に大変で、私たち経営陣も相当焦りました。飲食店の皆さまにご迷惑をおかけし、私たちのプロジェクトの未熟さも痛感しました。
しかし、このトラブルをきっかけに、組織がまとまる契機にもなりました。プロダクトを24時間365日止めずに運用することの重要性を改めて認識し、社内の開発運用(DevOps)体制も整えました。トラブルを防ぐ仕組みと、万が一起きても迅速に対応できる体制を整備できたことは、大きなターニングポイントだったと思います。
GCP野本)思い出しました。僕らからの追加投資の直前に起きた事件でした。
山田氏)はい、そうです。お盆の超ピーク時、19時から22時までシステムが停止してしまいました。その結果、飲食店のお会計ができなくなり、稼ぎ時だったにもかかわらず、売り上げがほぼゼロという状態になってしまいました。
利用規約上、私たちと飲食店さんとの契約では、このような状況での補償義務はありませんでした。しかし、この問題の重大さと将来への影響を考慮し、補償を行うという決断をしました。結果として、4桁万円という金額を支払うことになりました。当時の私たちの資金繰り(ランウェイ)から見ると、これは約1ヶ月分に相当する金額でした。
GCP野本)かなり緊張感が走りましたが、主要なお客様全員と直接対面してお詫びし、誠意を示すことができるいい機会になるという話も当時しましたよね。
山田氏)おっしゃる通りです。「ピンチはチャンス」という言葉は使い古されていますが、まさにその通りの経験をしました。
このインシデントがきっかけで、普段はなかなか会えない顧客の方々とも、社長である私が直接対面してお詫びする機会を得ました。これにより、以前は親密な関係を築けていなかったお客様とも、新たな関係性を構築することができました。
カスタマーサクセスの観点からは、このようなトラブルは決してあってはならないことです。しかし、結果として顧客との関係を深める機会になったという意味では、今振り返ると、この経験には意義があったと感じています。
GCP野本)コロナ禍は、予想外の追い風となりましたが、ベンチャーキャピタルの方々は、この状況を慎重に見ていたのではないでしょうか。
山田氏)そうですね。私たちは飲食市場の未来について説明する必要がありました。予測不可能な要素が加わり、市場の見通しが難しくなりました。これは、まるで占いのようなものでしたね。「飲食市場がどうなるのか」という大きな疑問が生まれたわけです。
GCP野本)私は、人々が必ず対面での交流に戻ると見立てていました。歴史を見ても、人類は何度もパンデミックを経験しながら、結局はまた対面でにぎやかに過ごすようになっています。ただ、当時のスタートアップ的なトレンドは、デリバリーサービスや中食が飲食業の未来だというものでした。私の考えはそれとは逆で、むしろオフラインの、飲食店舗向けのPOSシステムにビジネスチャンスがあると考えていました。
GCP阿部)野本さんの観点から見て、ここまで来る過程で特に重要だったと思われるポイントはありますか。
GCP野本)さきほどの点に加えるとすれば、CRMを含むプロダクトのコンパウンド的なローンチが非常に効果的だったと思います。推しエール機能も、アンケート機能もそうですし、山田さんたちが次々と発表する新機能がすべて好評で、単体SaaSにはない強みが生まれました。
山田氏)当時は、24時間365日、飲食業界の人たちと時間を共にしていました。今は少し距離を置いていますが、それでも週の一定割合は顧客との対話に充てています。当時はほぼ100%の時間を、プロダクト開発か顧客との対話、そして営業活動に費やしていました。どちらかというと、私自身が顧客の代弁者となって、彼らのニーズや課題をすべて言語化し、具体化する役割を担っていたような気がします。
質問よりも観察を:ダイニーCEOが実践する顧客理解
GCP阿部)この現場へのコミットメントと理解度の高さは、本当に素晴らしいですね。細部まで把握されている様子がよくわかります。
山田氏)顧客理解は、私にとって呼吸をするように自然なものです。自分の感覚で正確に判断できるようになるまで、現場に足を運び、顧客と対話を重ねます。これは誰かに教わったわけではなく、長年続けてきた習慣です。
よくある手法として、新しい機能やプロダクトを開発する際に、カスタマーインタビューを行い、顧客に質問をするというものがあります。しかし、私はむしろ質問よりも観察を重視します。「8時間ほど、ここにいさせてください。ひたすら観察させてください」というアプローチを取ります。
キッチンの中にGoProカメラを設置し、営業時間中ずっと撮影させていただきました。これにより、スタッフの動きを詳細に分析することができました。
例えば、キッチンディスプレイについて。従来の飲食店では、注文が入ると伝票がプリントアウトされ、それを見ながら調理を進めます。調理しやすい順や席順に伝票を並べ替えたり、ファーストオーダーを最優先にしたりと、様々な要因で伝票の並び順を調整します。
しかし、これを単純にディスプレイ化すると、紙の伝票ほど柔軟な対応ができません。この課題をどう解決するか、まずは徹底的に観察することから始めました。数日間、複数の店舗でGoProを設置させていただき、キッチン内の動きだけを撮影しました。私を含めプロダクトマネージャーたちで、その動画を何度も見直し、分析しました。
GCP野本)現在のキッチンでの状況はどうですか。プリンターもまだ使用されているのでしょうか。
山田氏)そうですね。キッチンディスプレイだけしか使わない店舗とかも結構増えて、どうしても飲食店のキッチンの中って、職人の方が多かったりご高齢の方もいらっしゃったりするので、ディスプレイよりはその上の方が安心感がある理由でプリンターを選ばれることもあるんですけど、でもやっぱりディスプレイを使えるお店さんってディスプレイのおかげでキッチンの生産効率が上がったりとか、あとはどの商品を作るのに何分かかってお客様にデリバリーを届けるまで何分かかりましたかっていうところも全部トラックできるんで、それを評価制度に組み込んでいるお店もありますね。
GCP野本)そう言えば、半導体の供給不足でキッチンプリンターが入手困難になり、受注しても新規導入できない時期がありましたね。事業計画に大きく影響するので、頭を悩ませました。
山田氏)そうでしたね。コロナ禍でワクチン輸送やパンデミックの影響で工場が閉鎖されたりして、半導体不足が起きました。その結果、プリンターが入手できない状況に陥りました。
GCP野本)まさにその時、キッチンプリンターの採用をやめて、タブレットに完全移行するかどうか検討しましたが、当時はみなさんから強い反対意見がありましたね。
GCP阿部)山田さんのように、CEOご自身が現場を熟知されていると、説得力が違いますね。「これではダメだ」と言われれば、それが本当の現場の声なのだと感じられます。このように徹底的に現場を観察し研究されているというのは、非常に重要なポイントですね。
グローバル投資家の目に映るダイニー:シリーズB調達の舞台裏
GCP阿部)今回のシリーズBの資金調達、特に海外から初めて投資を受けることになった経緯についてもお聞きしたいと思います。
海外からの投資を当初から意識されていたのか、それとも先方から働きかけがあったのか、この資金調達に至るまでの経緯について、お二人の視点からお聞かせください。
山田氏)はい、そうですね。元々市場が非常に大きく、開発すべきプロダクトも多い状況で、資金供給は市場で勝利するための大きな要素の一つでした。資金供給量を考えると、グローバルな投資家の方が明らかに一回の投資額も大きいですし、その後の展開も柔軟です。日本だと一定規模で上場が必要になりますが、グローバル投資家なら私募で複数回の追加投資も可能です。そのため、前回のラウンドから「次は海外だ」という話を野本さんを含む各投資家としていました。
今年の4月初めごろにラウンドを開始し、40〜50社ほどのグローバル投資家のリストを作成して管理し、積極的にアプローチしました。結果として、Bessemer Venture PartnersとHillhouse Investment Managementというトップティアのグローバル投資家から出資を得られたことは非常にありがたいです。
GCP阿部)野本さんから見ても、このようなトップティアの海外VCが注目し投資を決定したのは珍しいケースだと思います。彼らにとって、どのような点が魅力的だったのでしょうか。
GCP野本)投資家の視点からは、ダイニーは一定分かりやすい部分があります。特にBessemer Venture Partnersrは、米国のPOS決済スタートアップの「Toast」に投資して大成功を収めています。日本やアジア地域で同様のトッププレイヤーを探すとダイニーが該当するという話になります。また、メトリクス(各種指標)の数値が良いことも大きいですね。彼らはToastの成長過程の指標も把握しているので、それと比べて非常に良い数字だと判断されれば、話としては進みやすくなります。
GCP阿部)デューデリジェンスなど様々なプロセスを経て投資の意思決定に至ったと思いますが、この資金調達のプロセスにおいて、自分たちがどのような点を評価されているのか、という印象はありましたか。
山田氏)「本当に大きくなる気があるのか」というところを非常に注目されていたと感じています。意思の部分ですね。「大きくなる」というのは、何兆円規模の企業になるとか、さらにはナスダックに上場するかといった目線で様々な質問を受けました。
ありがたいことに、ダイニーは過去2年間、グローバル化への意識を日々のオペレーションに反映させてきました。例えば、取締役会も2年間ずっと全て英語で行っていましたし、外国人の採用も進めてきました。そういった足元のオペレーションを含めて、グローバル展開への準備はできていたと思います。
何より重要なのは、創業者や経営層が明確な意思を持っていることです。単にユニコーン企業を目指すのではなく、何兆円規模の企業になることやナスダック上場を視野に入れているということです。今回の資金調達プロジェクトが始まってから、CTOの大友さんとも改めてこの点について話し合い、自分自身も本気で取り組む覚悟を固めました。これらの点、つまり具体的な行動と本気の姿勢が投資家に伝わったのではないかと思います。
GCP阿部)日本のVCと海外のVCとの違いはありますか。着眼点や評価方法など、これまでの経験も含めて、特に異なる点はありましたか。
山田氏)善し悪しではなく、事象としての違いを挙げると、日本の投資家の方がより厳密で詳細な分析をする傾向があります。例えば、ビジネスモデルをより細かく見てくれますし、質疑応答でもかなり細かい論点を掘り下げてきます。我々としても、それらの点をしっかり意識する必要があり、そういう意味では良いセッションになりました。
一方、グローバルの投資家は、そこまで細かい論点やモデルの精緻な部分については質問されませんでした。これが一つの違いだと感じました。
もう一つの違いは、Go-to-Market(GTM)戦略に関する考え方です。ダイニーのようなフェーズの企業にとって、GTMは非常に重要です。日本の投資家が好むGTM戦略は、市場セグメントを細かく分け、各セグメントに対して異なるアプローチを取り、それぞれのペイバック期間を示すような、非常に詳細で多角的なものです。
対照的に、グローバルの投資家は、今回接触した40〜50社全てに共通していましたが、ペイバック期間は24ヶ月程度でも構わないと考えています。その代わり、単一の手段や単一のオペレーションで何万店舗も獲得することを求めます。市場セグメントを分ける必要はなく、一つの大きな収益源で良いが、5年間同じ手法で進めることを求めます。つまり、余計なことをせず、オペレーションを複雑化させず、一つのやり方を一貫して続けることを重視します。このようなコミュニケーションが非常に印象的でした。
GCP阿部)それは興味深いですね。
山田氏)それを受けて、私も考え方を変え、プレゼンテーションをしっかりと調整する必要があると意識しました。
GCP阿部)なぜ違いが出てくると思いますか。
GCP野本)彼らのファンドサイズが日本のVCよりも圧倒的に大きいことや、他の投資先からのリターンの平均的な大きさなど、様々な要因が投資家の判断基準には絡んでいると思います。ちなみに私は投資後、粗利(グロスマージン)の重要性を繰り返し強調してしまっていましたね(笑)。
山田氏)その指摘は正しかったと思います。おかげで、当初70%程度だった粗利が、現在では85%を超えるまでに改善しました。結果的に、この高い粗利率も海外投資家から良い評価を得ており、非常にありがたく思っています。
GCP野本)私もBessemerやHillhouseの方々とのインタビューで、やはりGo-to-Market戦略について多く話をしました。彼らは「どれだけ大きく成長できるのか」ということに非常に関心を持っていましたね。
ダイニーの次なる一手:キャッシュレスとバックオフィスで飲食業界を変革
GCP阿部)ここからは新しいプロダクトについてお聞きしたいと思います。二つほど新プロダクトが出る予定だと伺っていますが、山田さん、その点についてお話しいただけますか。
山田氏)実は、既にローンチして稼働している新サービスが二つあります。
一つ目は、飲食店向けの決済サービス「ダイニーキャッシュレス」です。決済業界は非常に不透明で、特に飲食店などのマーチャント(加盟店)が不利益を被っている状況です。ダイニーは業界の慣習にとらわれず、既存のルールを見直すことで、飲食業界に対して史上最安値の決済サービスを提供できるようになりました。
飲食店の利益率は通常5〜10%程度と非常に低く、そこから3.7%もの決済手数料を取られるのは大きな負担です。現在、キャッシュレス決済の比率は約50%ですが、今後さらに増加すると予想されるため、この負担はより大きくなります。ダイニーキャッシュレスは、この課題に応えるサービスです。さらに、使いやすさ(UX)の面でも優れています。
二つ目は、飲食業界の従業員向けのバックオフィスツールです。シフト管理、勤怠管理、評価管理、給与管理などの機能を統合したオールインワンのシステムを提供します。これまで飲食業界では、これらの機能を別々のツールで管理していましたが、diniiのシステムではそれらを一つにまとめ、さらにPOSシステムとも連携させることで、日々の業務効率を大幅に向上させます。
将来的には、今年中に、従業員の行動データを活用した信用提供サービスの展開も考えています。例えば、従業員向けの融資、クレジットカードの発行、住宅ローンの審査など、従業員の日常生活における課題解決にまで踏み込んでいきたいと考えています。
GCP野本)これもやはりPOSが基盤にあるからこそ可能なんですね。勤怠管理だけから始めても、なかなか難しかったでしょう。
山田氏)そうですね。POSは飲食店の全ての業務の根幹です。POSのデータを中心に飲食店の様々なオペレーションが回っています。我々がこの本丸を押さえているからこそ、周辺領域へ容易に展開できるんです。
GCP阿部)元々のベースプロダクトに加えて、キャッシュレスと勤怠管理が加わると、冒頭でおっしゃっていた「オールインワン」という表現通り、飲食店の業務全体をカバーする形になりますね。
山田氏)海外では似たようなアプローチを取っている企業がたくさんあります。アメリカの「Toast」やイギリスの「フリップディッシュ」など、各地で同様の企業が存在していて、みな同じことを考えているんだなと感じます。
基幹システムをしっかり押さえ、そこから周辺領域に拡大し、オペレーションを抑える。そして、得られたデータを活用して信用を提供し、飲食店や従業員、さらには来店客に対してもファイナンシャルサービスを提供していく。このような流れは、どの企業も同じような考えを持っているようです。
GCP野本)意外にも、日本ではPOSの分野に参入する企業が少なかったですね。
山田氏)そうですね。特にPOSの領域だけが唯一アップデートされていなかったんです。賢明な人たちからすればレッドオーシャンに見えたかもしれません。でも、私たちのように徹底的にやり切る覚悟のある人間からすれば、実はブルーオーシャンだったんです。
飲食業界のルールメイカーへ:ダイニーが目指す次なるステージ
GCP野本)事業を拡大していく中で、CEOとしてどこまで自分で見て、どこまで権限を移譲していくか、その辺りについてはどのようにお考えですか。
山田氏)先ほど話したプロジェクトの話と完全に通じるのですが、私もCTOの大友も、バックグラウンドがプロダクト寄りなんです。そのため、プロダクト開発やエンジニアリングの面では適切な組織作りや新製品のリリースができます。しかし、ビジネス面での知見が不足していて、ダイニー全体としても、ビジネス側の上流機能を担える人材を現在積極的に募集しています。
GCP野本)ビジネスの上流というのは、具体的にどのようなイメージですか。
山田氏)例えば、事業責任者レベルの人材です。今年でレベニューチャネルが5本になり、来年には10本、再来年には20本と倍々で増えていく予想です。そうなると、再来年時点で20人の事業責任者が必要になります。さらに、その20人と共に事業を発展させていく事業企画や事業開発の人材、各事業のプロダクト開発の意思決定を担うプロダクトオーナーなども必要です。こういった事業ベースの上流機能が現時点でも不足していますし、将来はさらに足りなくなると考えています。優秀な人材に入っていただき、私自身も学びたいと思っています。
GCP野本)バックオフィスやコーポレート部門の強化も必要ですね。
山田氏)特にグローバル基準での会計やFP&A(財務計画・分析)の体制構築が必要です。財務会計、管理会計を行い、それを各事業のKPIに落とし込み、次のアクションまで導き出してオペレーションしていく。このサイクルを各事業でより強固に実行していく必要があります。このような課題に取り組める人材も多く必要としています。
GCP野本)事業面では海外にベンチマークがありますが、経営者として意識している人はいますか。
山田氏)例えば、Grabの創業者アンソニー・タンさんや、最近まで社長を務めていた方などです。偶然つないでいただいて1時間ほど相談に乗っていただき、プロダクトCEOからコマーシャルCEOになるための助言をいただきました。また、Nubank(ヌーバンク)のデイビッド・ヴェレスなども参考にしています。多様な国や文化をまたいでユニバーサルなエクスペリエンスとビジネスを構築し、数兆円規模の企業に成長させた、特にアメリカ以外の地域でそれを成し遂げた経営者から多くを学んでいます。
GCP野本)何か共通するエッセンスはありますか。
山田氏)北米企業の進出を彼らは一種の「黒船」として捉えています。それに対して、先んじて自分たちなりの防衛線を築く必要があると考えているようです。両社の経営者は非常に優秀で、私が「優秀」という言葉を使うことすら僭越なほどです。彼らは点在する国々をまとめ上げる能力があり、これは今後、ビジネスだけでなく政治的なアプローチにも応用されるかもしれません。NubankもGrabも、もはや生活インフラとなっており、今後は文化や体験の提供から、政治的なルール作りにも関与していくだろうと感じました。
ダイニーも日本だけでなく、文化的背景の近いアジア圏を中心に展開し、飲食体験を作り上げるだけでなく、外食や生活に関するルール作りにまで関与できる立場になれば、グローバル企業として彼らと肩を並べられるのではないかと思っています。
GCP野本)今の状況を登山に例えると、そろそろ1合目に到達しましたか?
山田氏)よく聞かれるのですが、「家でパッキングしています」と答えています(笑)。グローバル展開が登山開始だと考えています。
阿部さん)そのビジョンは起業当初からありましたか、それとも現在の視点からそう見えるのでしょうか。
山田氏)創業当初は、良いプロダクトを作り、ユーザーの課題を解決することだけを考えていました。今では、日本の飲食業界を良くするだけでなく、日本のGDPを復活させる、さらにはアジア圏に広げていくといった、より大きなビジョンを持つようになりました。来年の自分は今とは違うことを言っているかもしれませんね。
GCP野本)一緒にパッキングしてくれる優秀な人が必要ですね。できあがった会社に入るのは面白くないので、スタートアップ人としては、パッキングぐらいがちょうどいいですよね。
山田氏)ありがたいことに事業は成長し、投資家からの評価も高いのですが、人材が不足しています。経営陣は私とCTOの大友しかおらず、マネジメント層や中間管理職が足りていません。私たちはプロダクト寄りのバックグラウンドなので、ビジネス面で強い人材を求めています。ダイニーという無限の可能性に溢れた「遊び場」で、自由に活躍していただける人材を募集しています。
GCP阿部)今回お話を伺って、改めて投資家としても支援を強化していく必要性を感じました。本日は、シリーズBの資金調達を発表されたダイニーのCEO山田さんをお招きし、これまでの成長の経緯と今後の方向性についてお話いただきました。ありがとうございました。
山田氏、GCP野本)ありがとうございました。
以上