カルチャードリブンな組織を貫き、創業7年で東証一部に上場。アカツキCEO塩田氏が考える売上と文化の二兎を追う経営(前編)
グロービス・キャピタル・パートナーズでは、投資先および出身企業経営陣が集まる小規模勉強会を定期的に開催しています。大規模なカンファレンスではなく、密な経営者同士でQ&Aやディスカッションを行うことが目的です。
今回は2017年10月、登壇者に代表取締役CEO 塩田元規氏を迎え「アカツキ大解剖!創業7年目で東証一部上場した創業者・社長のすべて」と題して行われた勉強会の内容をダイジェストでお届けします。
前編となる今回は、創業時から一貫するカルチャードリブンな組織作りに徹する背景に始まり、社内文化をまとめた書籍を作る、未来に向けた手紙を書くなどユニークな取り組みを語っていただきました。また最後には、塩田氏が大学時代に今に至る価値観を培った「とある経営者との出会い」についてもお話ししていただきました。
これまでメルカリ取締役社長兼COO 小泉文明氏、ビズリーチ代表取締役社長 南壮一郎氏、ユナイテッド代表取締役社長COO 金子陽三氏をお招きし、組織運営や新規事業の生み出し方など、経営におけるノウハウを共有いただきました。今回のGCP勉強会は「アカツキ大解剖!創業7年目で東証一部上場した創業者・社長のすべて」と題し、アカツキ代表の塩田元規氏をお迎えします。
塩田氏はディー・エヌ・エーに新卒入社し、退職後2010年にアカツキを創業。メンバーとマンションの一室でゲーム事業を立ち上げ、今年9月に創業からわずか7年・弱冠34歳で東証一部上場を果たしました。本日は組織や事業に関することはもちろん、塩田氏の今につながる学生時代のお話までお伺いします。
ビジョンドリブンな組織を目指し、カルチャーに先行投資。アカツキの全社員には共通のDNAが存在する
ーーまずは、組織の特徴についてお伺いできますでしょうか?
塩田:僕たちの組織は、一人一人が自分らしく個性をもって成長すること。それとメンバー同士のしっかりとしたつながりを両立しようとしていることが特徴だと思います。内部では、「成長し、つながることによって幸せを生み出す組織」という形で表現しています。僕たちはメンバーを管理・コントロールしたくはありません。それは人の個性を潰しますから。ただしその分、メンバーには自分をプロとして律していくということ、お互いに向き合って思いやることをお願いしています。アカツキのメンバーの特徴は色々ありますが、中でも際立っているのは「謙虚で、何事にも青臭く本気で取り組む」という点だと思います。またどんなプロジェクトであれ、携わる全メンバーが「なぜこの仕事をやるのか」という意味を自分たちで考え、理解している状態にあります。
そうしたカルチャーが形成された背景にあるのは、まず、経営陣が「自分で考えて、行動できる人材を育成する」方針を貫いてきたからだと思います。創業以来、各メンバーが仕事の意味を考え、語る機会を一貫して設けてきました。言われたからやるのではなく、自分の頭で考えてやるということです。特に仕事の意義というような抽象的で答えがクリアではないものを考え、語る機会があることは人が本当の意味で成長するために、非常に重要だと考えています。
僕たちは会社として、数字のような目に見えるものだけではなく、目に見えないものを大切にすると決めて経営しています。全ての数字だけを見てロジカルに意思決定を行うことはある程度頭が良ければ誰でもできます。でも、それでは本質を見失いがちです。僕は目に見えない文化や雰囲気を大切にできる経営者こそ素晴らしい経営者だと信じています。だからこそ、数字には現れず、リターンも得にくいカルチャーにもしっかりと投資してきました。結果として、一緒に働くメンバーの一人一人が、自分の頭で考えて行動する組織に育っています。僕らにとって、文化とはビジネスを成功させるためのツールではなく、むしろ価値創出の源泉そのものです。
カルチャーを維持しながら売上を追求できる理由。アカツキの文化をまとめた書籍が組織を強くする
ーー具体的には、どのような仕組みになっているのですか?
塩田:具体的なHowはたくさんあるため、代表的な事例を紹介させてください。一つは全社員が参加する週次の定例会議の際に「なぜ、このプロジェクトを行っているのか」を説明することが必須になってます。
週次報告の中では、もちろん売上や事業概況の報告もありますが、そもそも大上段にある”僕らがこの仕事をしている理由”を忘れないようにするために、なぜやるのかを共有しています。この”Why”は、チームみんなで話して、プロジェクトをスタートするときに必ず決めてもらっています。それがないと、プロジェクトに思想や魂が入りません。ともすれば、毎日の仕事に意義がなくなり「作業」になってしまいます。
もちろん、売上や利益を軽視している訳ではありません。企業はそもそも世の中に価値を提供するために存在しており、売上は提供した価値に対する評価の総量。そう考えると、売上をあげることは非常に重要です。ただ、売上はあくまで提供した価値に対する結果指標。売上だけを追うのではなく、本来の目的を見失わずに「なぜやるのか」追求する姿勢を貫ける仕組みを整えました。
また、エントリーマネジメントもしっかり行っています。たとえば、新たに入社してくれたメンバー全員にアカツキの社史や哲学を経営トップである僕自身から説明します。これは2時間以上かけて行なっています。「僕らが創業までどのようなことをやってきたか。なぜ、そして何に本気になっているのか。過去から一貫して未来をどう描いてきたのか」というようなことを毎回話すんです。要するに、我々はどのような目的のために集まっている何者であるのかという話に始まり、それが言葉だけではなく、アカツキの歴史にしっかり息づいていることを理解してもらいます。その内容について議論してもらい、一人一人なぜアカツキで仕事をしようと思っているのか、しっかりと考えてもらいます。ただ給与を得るためであればら、どこで働いても良いはずです。給与以外のここで働く理由をそれぞれが持っていないと、本当に強い組織はできませんし、働く人も幸せにはなれません。
ほかにも、「未来のアカツキのあり方を考える」ワークショップを実施するなど、メンバー同士がアカツキについて考え、語る機会を積極的につくっていますね。
もちろん、組織が拡大するフェーズに入ると、ただ語るだけではメンバーに対してアカツキのビジョンや考え方を浸透させることが難しくなってきます。そこで会社のビジョンや考え方を改めて定義し、書籍にまとめています。メンバーが何かしら判断に迷ったら、この本で語っている哲学と照らし合わせて行動するよう促しています。
アカツキ流チームビルディング「未来への手紙」とは?
ーーカルチャーの強化を意識し始めたのは、いつ頃からですか?
塩田:社員が10人程度になったフェーズです。組織が大きくなると、メンバーのなかで階層ができたり、知り合いではない人を採用するようになります。中途採用面接で「君に向き合い続けるから、一緒に頑張っていこう」と熱い約束を交わして入社してくれたにも関わらず、数日後に辞めてしまった苦い経験がありました。
この出来事で、「恐らく入社者がアカツキに対して求めていたことと、僕らが考えていることのギャップがあったのだろう」と気付いたんです。多分、僕らの考え方はやや「振り切れているところがある」と思うので、ミスマッチをなくすため、先ほどお話したようなエントリーマネジメントを行うことが必要なのです。それをしっかりと文化と仕組みに落とさなければ、成長は難しいと考えたのです。
また、創業間もない頃はとにかくお金がなかったので、倒産の恐怖との戦いでした。そうしたフェーズって、経営者も意識しないと目先の利益にとらわれすぎて、殺意の波動に満ちてしまうケースがあるじゃないですか(笑)。このままいくと会社として1番大事なものを見失ってしまう恐れがあります。この時は、チームビルディングと自分たちの信念を忘れないために、全員揃って「未来のアカツキ」へ向けた手紙を書くワークショップを行いました。メンバー10人くらいのときだったと思います。自分たちが今なぜ働いているのか。未来にどういう夢をもっているのかをメンバーそれぞれが語り、動画を撮影しました。
これが当時のメンバーの動機形成にはもちろん効きましたし、僕自身の覚悟もより強くなりました。後に入ったメンバーには、そのワークショップの動画を観てもらうことで、「こんなにも本気で頑張っていたんだ」と、創業時を追体験してもらえたんですよね。
動画を観てもらったあとに、僕が「本当に苦労したけれど、とにかく楽しかった」と話すと、「もっとこの会社に早く来ていれば良かったです」と明るい表情で言ってくれる社員も多くいます。
人となりは、雰囲気に現れる。アカツキ塩田氏がとある経営者から学んだこと
ーーそうしたマネジメント手法はどのようにして学んだのでしょうか?
塩田:本を読んだり、経営者の方々にお話をうかがって勉強しました。大学時代に「輝いている大人とそうではない大人がいるなら、自分は前者でありたい」と思い立ち、世の中や会社を幸せにしている企業の経営者にインタビューをしてまわる「ハッピーカンパニープロジェクト」を立ち上げた経験も影響しています。多くの経営者の方々から薫陶を受けたことは、アカツキの組織づくりの礎になっています。
とある経営者が「会社はもちろん利益をあげる組織だ。でも利益とはなんだね?利益とは、提供した価値とそれに要したコストの差分だ。つまり付加価値だ。つまり、企業は価値創出を与えるために存在する。利益は価値創出の結果指標だ。それだけが目的ではない」と話してくださったことがありました。最終的には「イケてる会社とは、雰囲気のいい会社だ。以上!」とユーモアで締めくくっていらっしゃいましたが(笑)僕はこのお話に、会社経営の本質を見た思いでした。
イケてる経営者には、目に見えないものの積み重ねがあります。そして、目には見えなくとも雰囲気に現れます。その方は「今の日本企業は数字ばかりに囚われてしまい、大事なものを全部捨ててしまっている」とも仰っていました。「だからこそ経営者は、目に見えないものや答えのない問に対し、哲学を持って意思決定しなければならない」と。その積み重ねで現れてくるものが、「雰囲気」の正体なんじゃないかと思います。
この大学時代の学びから、目に見えない「大義」や「思想」と、目に見える「利益」はどちらも大切である前提でありながらも、トレードオフを迫られた場合は「大義」を取ることを大事にしています。
ーーそうした雰囲気を、経営層だけではなく社員全員にもたらす取り組みはありますか?
塩田:毎週全社員参加で行う週次のミーティングです。全体60分のうち、各PJTの報告や僕からのメッセージの時間が約30分。あとの30分は、近くにるメンバーで5〜6人ずつで輪になって感じたことや気付いたことをディスカッションする”分かち合い”をしています。分かち合いって本当に大切です。分かち合いは本音。ポジティブ、ネガティヴ両面の感情を出していいルールです。感じたことなので正解・不正解もありません。でもそれをしっかり分かち合うことで、自分の考えも確かめられますし、一人一人が何を感じているのかをみんなが知ることができます。相手ともっと深くつながる機会になります。このグループ毎の分かち合いの後、全体への共有を設けているのですが「みんなに何か分かち合いたいことはある?」と尋ね、数人の意見をシェア、そこで話されたことを、再び分かち合っています。
会社が掲げるビジョンについてみんなで語り、共感していく。率直な感情が出ているから感動がある分かち合いの場になります。僕がすごく好きで大切にしている時間の1つでもあります。現在のアカツキは、この時間なくしては語れません。
【過去のGCP勉強会記事】
・急拡大組織の束ね方とは?モチベーションを高める仕掛けづくり– メルカリ 取締役社長・小泉文明氏
・急拡大組織の共通点とは?成長を加速させるブレない“軸”の作り方– ビズリーチ 代表取締役社長・南壮一郎氏
・マルチサービスで勝つには?UNITED 金子社長に聞く「新規事業に強い組織づくり」
・スタートアップのマスマーケティングの鍵とは?「定量×定性」の二軸で考えるマーケティングの基礎–トランスコスモス・真嶋良和氏×博報堂・野田耕平氏