急拡大組織の共通点とは?成長を加速させるブレない“軸”の作り方– ビズリーチ 代表取締役社長・南壮一郎氏(後編)
グロービス・キャピタル・パートナーズでは、投資先および出身企業経営陣が集まる小規模勉強会を定期的に開催しています。大規模なカンファレンスではなく、密な経営者同士でQ&Aやディスカッションを行うことが目的です。
今回は2017年6月に「急拡大組織の束ね方とは?モチベーションを高める仕掛けづくり」と題して行われた勉強会の内容をダイジェストでお届けします。登壇者にビズリーチ・代表取締役社長の南壮一郎氏を迎え、ツクルバ・代表取締役CEOの村上浩輝氏がディスカッションのモデレーションを行いました。
後編では前編の内容を受け、急拡大組織を束ねるクレドの運用論、世界のトップ経営者にならう成功する企業のパターンについてお話いただきました。
[南壮一郎]
米・タフツ大学数量経済学部・国際関係学部の両学部を卒業後、モルガン・スタンレーにて投資銀行業務に従事する。その後、楽天イーグルスの創業に携わり、株式会社ビズリーチを創業。2009年4月、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」を開設。人材領域を中心としたインターネットサービスを運営するHRテック・ベンチャーとして、AI技術を活用した戦略人事クラウド「HRMOS(ハーモス)」や求人検索エンジン「スタンバイ」なども展開。
「ビズリーチ・ウェイ」のもとで社員の一体感を高める
村上浩輝(以下、村上):前編では、組織文化の醸成に会社の理念や価値観、また行動指針をクレドなどに言語化することが重要であることをうかがいました。この点をもう少し掘り下げたいと思うのですが、より具体的にどれほどの規模感でクレドを設定するべきなのでしょうか。
南壮一郎(以下、南):50人くらいから100人を超える規模ではないでしょうか。もちろん早く設定できるに越したことはありませんが、人よりも言葉が先にできてしますと、組織に浸透し辛くなると感じます。
村上:採用の際にも重要になる?
南:ビズリーチでは理念や行動指針を「ビズリーチ・ウェイ」というものにまとめていまして、採用時にも、候補者の仕事に対する価値観が、弊社の社内文化とフィットしているかを必ず確認しています。
どんなに優秀な人材であっても、仕事への価値観が合わなければ、双方が不幸せになりますので、採用は見送ります。組織作りは、最終的にすべて採用に立ち返るものです。いかなるときも組織として矛盾が生じないために、やはり根底に同じ志がなければいけないので。
村上:社内に「ビズリーチ・ウェイ」を浸透するために何か取り組みをされているのでしょうか。
南:ビズリーチ・ウェイに含まれる言葉が、常日頃から社内で流通する仕組みを作っています。これらは、前職の楽天様のマネをしたのですが、たとえば毎週月曜日の全社員が集う朝会では、私のスピーチの題材として活用することも多いですし、社内にビズリーチ・ウェイの言葉が書かれたポスターも貼ってあります。また、社員が手軽に持ち歩けることが重要と考え、カードサイズにして全員のネームプレートに入っています。
村上:それ以外に、会社の一体感を創るためにやっていることはどんなことでしょうか?
南:半年に一度、半期の優秀者を表彰するアワードには力を入れています。全社員が集う中、重厚感あるステージをライトアップして、活躍した社員をみんなで称えるイベントです。表彰された方々のスピーチは、僕もいつも感動しています。
また、社内のみんなと楽しむためのイベントにも力を入れています。多くの企業様では、納会や忘年会を開催すると思いますが、我々は、少し趣向を凝らしています。例えば、昨年の納会では、部署横断で、世代別にチームを分けた「合唱コンクール」を行いました。任意参加ですが、結果として8割の社員が参加した企画になりまして、大変盛り上がりました。仕事以外のことで、同い年の社員たちが、同じことに対して一生懸命になる機会があれば、相互理解が深まり、結果として、その後、仕事でコラボレーションしやすくなりました。
組織の成長は「真似する」ことからはじまった
村上:社内制度のなかに様々なフレームワークを取り入れられているような印象を受けます。どこか参考にしている企業はありますか?
南:常日頃から、事業でも組織のことでも、成功している企業をまず真似することが成功の近道だと思っているので、事例研究はとことんやっています。たとえばアワードは、リクルート様の取り組みを参考にさせていただきました。
また、先ほどお話しした毎週月曜日に全社員が参加する朝会は、楽天様を参考にしているのですが、その中では、月に一度、約30分間のQ&Aセッションを行っています。私が社員の前に立って誰でも自由に質問できる機会を設け、全社員の前で自分の考え方を直接伝えることが目的です。こちらは、元々Google様で行っていた制度で、その後、Google様でもともと働いていたシェリル・サンドバーグさんがFacebook様に持ち込んだことを日本支社で勤務している友人から耳にしたので、すぐマネさせてもらいました。
村上:良いところはどんどん取り入れていくと。
南:ビズリーチの新入社員研修では「ソニー歴史資料館」の見学ツアーが毎年あります。1947年、戦後間もないころからスタートしたソニー様ですが、今では、日本を代表するグローバル企業に至るまでの歴史を自分の目で見て、そこから成功のエッセンスを見抜いてもらうためです。あくまでも、僕自身の考え方ではありますが、「世の中に存在する成功パターンはそう多くはない」。だからこそ、成功している取り組み、良いと思った取り組みはまずは真似してみる。すぐやってみた後に、自分達に一番フィットした形に改善していけばよいと思っています。
普段から情報取集をしながら、自分の環境や状況と似た他社の成功事例やパターンを探し出し、すぐ実行する。自分だけで考えるのではなく、世界中の頭脳を活用した方がスタートラインに早く立てます。例えば、ビジネスモデルの話になりますが、楽天イーグルスの事業運営には、スタジアム・ビジネスというものが欠かせません。我々は、プロ野球球団の運営は初めてでしたので、他球団の皆さまの成功事例を徹底的に研究した以外に、スタジアム・ビジネスの本質は、キャパシティがある箱をいかに効率よく稼働させる商売だと捉え、カラオケボックスや映画館、またホテルやディズニーランドをよく参考にさせて頂きました。世界中には成功するためのヒントがたくさん落ちていると思えば、必然と世の中の動きに興味を持ち始めると思います。
優秀な経営者は誰よりも勉強し、自分の足で情報を稼ぐと教わった
村上:いかにして成功事例をキャッチアップするのか、アンテナの張り方が重要になりそうですね。
南:楽天イーグルス時代の素晴らしい先輩たちの背中を見ながら学んだ考え方ではありますが、本当に有意義な情報はインターネット上に落ちてはいないことも多く、主体的に探しにいかなくてならないものです。また、同じ国の同業他社だけではなく、海外の企業や本質的にビジネスモデルの要素が近い業界の成功事例など、参考になる会社はいくらでもあります。新しいテクノロジー、新しいビジネスモデル、新しい切り口。徹底的に情報収集して、自社の事業、組織、制度に反映していくべきだと思います。
たとえば評価制度のOKR(Objective and Key Result:目標と主な結果)ですが、他社様でも導入が進んでいますが、大変素晴らしい制度だと感じたので、ビズリーチでも2年ほど前から取り入れています。こうして海外の最新事例に目を向け、素早く応用していく必要があります。
(参考記事:急拡大組織の束ね方とは?モチベーションを高める仕掛けづくり– メルカリ 取締役社長・小泉文明(後編))
村上:なるほど。現在新たにリサーチを進めている取り組みはありますか?
南:おかげさまで弊社も、大きく成長を続けることができていることもあり、次のフェーズにおける社内のコアコンピタンスに「教育と育成」を据えたいと考えています。ですので、リーダー育成に定評のある世界のGE(ゼネラル・エレクトリック)様の研究を続けているのですが、本当に毎年莫大な資金を人材育成に投じていまして、特に「クロトンビル」と呼ばれる企業内大学がその中心にあると分かりました。とても単純な発想ですが、ビズリーチでも同様に企業内大学を今年度中に作ると決めて動いています。現在は、GE様のOBや企業内大学の運営に関わっている方々にヒアリングを続け、思想や設計、カリキュラムなどについてアドバイスももらっています。何度も言うようで申し訳ないのですが、世の中において、ある領域の成功パターンはそんなに数多くはないと思うので、まずは最低限、それらを正しく知ることが重要です。
最後となりますが、ありがたいことに、社内外の仲間と支え合いながらビズリーチを8年間続けることができました。自分自身が経営者として学んだ一番のことは、会社も、事業も、自分も変わり続けなくてならないことです。それも急激なスピードで変わる世の中に合わせて変わり続けなくてはなりませんし、そのために学び続けなくてはなりません。ソフトバンクの孫さんも、さまざまな分野の専門家を見つけて、よく話を聞いていると伺っています。経営者は、それくらいに情報を追い続け、その情報をもとに決断をし続けなくてはならないのです。
【過去のGCP勉強会記事】
・急拡大組織の束ね方とは?モチベーションを高める仕掛けづくり– メルカリ 取締役社長・小泉文明氏(前編)