メガベンチャーへの飛躍を目指す。今GCPがシード投資に踏み込む理由とは?
立ち上げからIPOを目指す若い起業家にとって、シード期以降のビジネス構築は不透明です。投資家と起業家の間には情報の非対称性が多く、資金援助だけではスケールしないケースもままあります。たとえばシリーズAの前に、スケールを前提としたユニットエコノミクスが想定されていないことも少なくありません。そうした現状を受け、グロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)がシード投資に参入。
高宮曰く「シード期はシリーズA以降の大規模な資金調達をする助走期間」。シード期に先々を見据えた事業予測を行うことが何より重要だと語ります。また今野は、シード期に採用に注力したビズリーチを例に挙げ、成長する企業の条件を語りました。
高宮と今野が考える投資される起業家の特徴、今後展開するシードベンチャーのフォロー体制を語ります。
(インタビュー:長谷川リョー)
シード期はシリーズAの助走期間。先々を見据えた事業予測が成功の鍵
ーーシリーズA以降のステージを中心に投資を行ってきたGCPが、現在のタイミングでシード投資に踏み込む経緯を教えていただけますか?
(写真、左から)高宮慎一、今野穣
高宮慎一(以下、高宮):「GCPはレイター投資が多い」と言われることがありますが、実は6割以上はシリーズAで投資を行っています。事例をいくつか挙げると、メルカリはサービスがリリースされて最初のラウンド、ナナピはアルバイトを合わせて社員が6名、売り上げ0円の時点で投資しています。
今野穣(以下、今野):もしかすると、キャピタリストと起業家の間に定義のギャップがあるかもしれません。起業家にはサービスの検証が終わり、いよいよマネタイズに踏み込むステージを「レイターステージ」と表現される方も多いですが、弊社ではその段階を「レイターシードもしくはアーリーステージ」と表現します。いわゆるシリーズA前後とも言われることが多いですが、逆にステージ論とシリーズの名称は一致するものではないことも、認識の齟齬の素になっているかもしれませんし、コミュニケーションの際にも注意が必要だと思っています。
ーーその上で、改めて投資ステージを早くする経緯を教えていただけますか?
高宮:数年前までは、業界を見渡しても、いわゆるVCがシード期の早い段階で投資を行うことがほとんどありませんでした。そのためシード期の投資家は、資金の援助中心に行うプレーヤーが多かったんです。しかし、現状を見渡すと、後ろのステージでは、資金に加えノウハウまで提供する投資スタイルが当たり前です。
シード期はシリーズA以降で大規模なファイナンスをするための助走期間です。起業家としても、早い段階からIPOやシリーズAなど先々を見据えて支援してほしい、メンタリングしてほしいわけです。実際、そういう要望をすごく受け、個人的にメンタリングしたりしていました。弊社の投資先企業はおよそ30%が上場まで到達するので、そこから逆引きして、今どうしたらいいのかというノウハウを提供することできます。そういったノウハウを還流させることで、若い起業家の成功事例を増やせるのではないかと考えました。
今野:シードからシリーズAに向かう流れは、非連続になるケースがあります。その場合、経験豊富なキャピタリストと経験の少ない起業家の間にミスコミュニケーションが起きてしまう。
一つ例をあげると、ユニットエコノミクス(ユーザー一人当たりから得られる収益が、ユーザー一人当たりを獲得するためのコストを上回るかを測る指標)の誤算。「ユニットエコノミクスに成功したので、シリーズAの資金調達をしたい」と申し出る起業家がいますが、市場が拡大した際に、そのユニットエコノミクスが機能するかは分かりません。
高宮:シード期のユニットエコノミクスは、事業がスケールする前提で設定することが大切なのですが、はじめての起業家はそうしたことを知らないケースが往々にしてあります。僕らキャピタリストが、多くの事例を通して得たノウハウを若い起業家に提供することで、最短で成功へ導いてあげたいと考えています。
シード期は事業よりも人をみる。投資される起業家の特徴とは?
ーーシード期の特に早い段階では、ビジネスモデルが未完成のケースも少なくないと思います。そうした際でも投資を行うのでしょうか?
今野:立ち上げ期に約5,000万円〜1億円の投資を行い、追加でそのあとも投資をしていくケースを想定しています。最近の事例を挙げると、ネイティブ英語を学習できるサービス「フラミンゴ」を運営する株式会社フラミンゴに投資を行いました。通常よりも早い意思決定プロセスを設計し、投資は一度の面談を経て決定しています。
ーーデューデリジェンスから意思決定までの速度が非常に早いと感じます。投資をするかどうかは、どういった所を見ているのでしょうか?
今野:投資担当者に一定の裁量権を付与しているため、基本的には個人のキャピタリストのコミットメントが重要になります。ステージが若いほど、ビジネスモデルではなく経営者/経営陣と大きな意味での市場性が投資基準になります。僕の場合は、伸び代を考えつつ、同年代の起業家の中でリーダーになりそうな成長をされそうか判断基準にしたりしています。
高宮:僕は、伸び代もそうなんですが、現在も見ているかもしれません。具体的には「ブレない大局観」と「柔軟な戦略性」があるかどうか。ブレない大局観とは、5年程度のトレンドをしっかり把握できているか。「柔軟な戦略性」は、当初立てた戦略が外れた場合でも、その誤算に気づき、迅速なPDCAが回せるかです。
本当に正しい正解を求めているではなく、外部環境が変わったり、新たなことが分かってきたときに、同じように再現性をもって合理的に戦略を再構築できるか。そんな所を見ている気がします。
上場後を見据えた“2本目の矢”を持て。成功する企業に必要な条件とは?
ーーシード期からシリーズAへ転換する際に、起業家が注意しなければいけないポイントを教えていただけますか?
高宮:シード期の早い段階は、プロダクト開発にリソースを割き、プロダクトマーケットフィットするのかを検証するフェーズに当たります。ターゲットにしているユーザに受容されそうだと、ある程度検証されたところで資金を投入し、サービスを拡大するレイターシードへと移っていくのですが、ここで開発者の視点から経営者の視点へ切り替えていく必要があります。今までの延長線でやっていると、なかなか切り替えなきゃと自覚するのは難しかったりします。
ーーGCPとして、具体的にどのようなサポートを行うのでしょうか?
高宮:担当者ベースで、社外役員として、戦略、仕組化、組織開発など経営レイヤーのの支援をします。そして、GCP全体の組織として、オペレーションレイヤーでスタートアップが成長する上で必須になる「4R」を重点的に支援します。そして、起業と握った事業の進捗していれば、当然シリーズA以降も継続的に追加投資していきます。シード期の段階でシリーズA、シリーズBと先々の押さえどころを知っておかなければ、取り返しのつかない壁にぶつかるケースが少なくありません。そうした事態を避けるため、都度逆引きで今何をすべきかというのを起業家と一緒に議論していければと思っています。
今野:少なくとも上場後のストーリーまで考えるべきです。上場を目指す「1本目の矢」を準備したら、並行して上場後の「2本目の矢」を用意しなければいけません。
高宮:あとは、多くの場合、起業家はプロダクトには目がいくのですが、組織開発を見落としがちです。採用は長いリードタイムを要するため、シリーズAの資金調達後に人材獲得に動いているようでは遅い。シード期の時点で目星をつけておくのが理想的です。
今野:過去の事例をみると一目瞭然で、初期の経営陣が残っているほど企業はスケールします。たとえば、創業8年で800名を超える規模までに成長したビズリーチは、創業メンバーの6名全員が会社に残っている(2017年6月時点)。
ーーすでにシード投資を見据えた動き出しをされているのでしょうか?
高宮:先日シード期のベンチャー企業を対象に、相談なんでもOKなオープンオフィスを開催しました。10枠ほど用意しておりましたが、ツイッターとフェイスブックで告知しただけで20以上の応募があったんです。
シード市場も混み合ってきており、多くのファンドが設立されていくと思います。比例するように供給される資金の総額も増えていくなかで、最後はお金以外の部分がどこから出資を受ける判断基準位になるのではないでしょうか。そうした仮説の中で、弊社は5,000万〜1億円の投資額をベースに、ファームが持つノウハウを提供していく予定です。
今野:日本のスタートアップ文化が醸成されつつあるなか、可能性に満ちた若い起業家が数多くいます。弊社としてもスピード感を持ちながら、意思決定を進めていけたらと思っています。なので、現在の収益や規模感にとらわれず、どんどんドアをノックしていただければ幸いです。