READYFORの新経営メンバー招聘が示す、スタートアップ・シーンの成熟と新たな地平
「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」をビジョンに掲げ、国内初・日本最大級のクラウドファンディングサービス「READYFOR」を運営するREADYFOR社。同社はこれまで約2万件のプロジェクトのサポートを手掛け、コロナ禍では国内クラウドファンディング史上最高額となる8.7億円を超える「コロナ基金」の運営を実施。「資本主義ではお金が流れない領域」に対して多角的な資金調達手段を提供している。
昨年末には、数多くのスタートアップ、メガ・ベンチャーで活躍してきた、元ヤフー株式会社の岡元淳氏が同社に参画。日本のインターネット黎明期より、数多くのサービスを立ち上げてきた、知る人ぞ知る重要人物の参画は、日本のスタートアップ・シーンの成熟を象徴する人事と言える。
今回は、岡元氏、READYFOR代表取締役CEOの米良はるか氏、そして二人を引き合わせたグロービス・キャピタル・パートナーズ、投資先支援チームGCPXのリーダー、小野壮彦の三者対談の中で、「スタートアップエグゼクティブ」に求められる人物像を紐解いていく。
重要なのはハードスキルだけではなく、マインドの合致
(左)READYFOR株式会社 執行役員プラットフォーム本部長・岡元淳氏
佐賀大学理工学部情報科学科卒。システムエンジニアとして働いた後、株式会社ビズシークを起業し、取締役CTOに就任。二次流通EC事業を展開し、楽天株式会社へ売却後、toC事業領域のシステム開発/事業責任者を複数担当。ITコンサルティング事業で独立した後、ソーシャルマーケティング事業の株式会社クロコスを起業し、代表取締役社長に就任。2012年にヤフー株式会社へ売却し、マーケ、広告、メディア、ECなどの事業責任者を歴任。2020年10月よりREADYFOR株式会社に参画。
(右)READYFOR株式会社 代表取締役CEO・米良はるか氏
1987年10月生まれ。慶應義塾大学経済学部、同大学院メディアデザイン研究科(KMD)卒業。2011年3月29日に日本初・国内最大級のクラウドファンディングサービス「READYFOR」をスタート。2014年に株式会社化し、代表取締役CEOに就任。World Economic Forumグローバルシェイパーズ2011に選出、日本人史上最年少でダボス会議に参加。「人生100年時代構想会議」「未来投資会議」等の民間議員に選出、現在は「デジタル改革関連法案ワーキンググループの民間構成員を務める。
小野:岡元さん、今回はREADYFORでの新たな挑戦、改めましておめでとう。岡元さんは、ネット黎明期に現ヤフーCOOの小澤さんとタッグを組んでの起業を経験されてから、かれこれ20年超、シリアル・アントレプレナーとして買収を二度も経験し、いわばネット業界のメインストリームを歩かれたベテランなわけですが、今回は再度、スタートアップでの勝負ですね。
岡元:ほんと懲りないというか、やっぱりこう言うのが好きなんでしょうね。
米良:岡元さんが入社してくれて、本当に心強く感じています。READYFORにジョインしてから、もう半年が経ちましたが、どうでしょうか?
岡元:入社直後の全社ミーティングで、社員の皆さんにご挨拶しました。READYFORは若い力で頑張ってきた組織で平均年齢が31歳くらいなので、だいぶ歳の離れた私から見ると、みんな元気だな!と驚いた部分がありました(笑)。
当日の挨拶では、自分が誇れることは「長いあいだネットの業界で様々なプラットフォームを作る仕事をやってきたこと」なので、とにかくこれまで踏んできた場数や経験というものを活かして、READYFORの成長に貢献したいと話しました。
小野:具体的には、どんな役割で入社したのですか?
岡元:READYFORのプラットフォーム事業の責任者という役割を担っています。
クラウドファンディングを実行する「実行者さん」と「支援者さん」が使うサービス自体のオペレーション、マーケティングやプロダクトの企画を担当している部署になります。
プロダクト・サービス自体をもっと磨きこんでいったり、使い続けて頂くために積み上げ型の事業にするための取組をしたり、多くの人に知っていただくための仕事ですね。
小野:米良さんとしては岡元さんにそこをお任せしようと思った背景は何だったのでしょうか?
米良:まず、ハードスキル面では、岡元さんがヤフーのプラットフォームとメディア事業をずっとやってこられてきたということですね。
READYFORは実行者と支援者を適切にマッチングするプラットフォームという側面と、社会に向けてメッセージを発信するメディアのような側面があるのですが、岡元さんは、その両面をヤフーでご経験されていました。
小野:ぴったりですね。
米良:はい。あと、経営陣に加わっていただくという意味では、人柄や考え方というものが大事だと思っていました。
小野:御社は特にそういう面が強そうです。
米良:クラウドファンディング市場は新興市場ですし、「想いの乗ったお金の流れを作る」という新しい領域において、ビジネスとして成長する未来を信じて、一緒に動ける方でないと難しいだろうなと思っていました。
最初にお会いしたときに、元々、岡元さんがやりたいと思って周りに伝えていたことと、私たちがやっていることが合致していたので、安心しましたね。いろんな意味で、ズレがないというのはやはり大事だと思っていたので。
小野:会社のアイデンティティと、岡元さんのアイデンティティが一致していた、ということですね。
岡元:Facebookで入社報告のポストをしたら、「岡元さんらしい選択だね」というコメントをすごく多くもらいました。
小野:うん、らしいよね。
米良:私もそのコメントをみました。皆さんが応援してくださっている様子、喜んでおられるのを見て、なんだか嬉しかったです。
経験者を迎え入れたことでできたチームの「精神的な支柱」
小野:少し時間軸を戻すと、私が最初に米良さんとお会いしたのは2年前。経営チームの作り方について色々議論しましたよね。
米良:そうでしたね。私は学生起業家で、経営経験もないので、経営チームをどのように作っていくかについて外部の皆様のアドバイスも受けながら進めています。サービス自体は2011年に開始したのですが、会社を立ち上げたのは2014年です。その年の冬にボストン・コンサルティング・グループに所属していた樋浦がCOOとしてREADYFORにジョインしてくれました。
小野:早い段階から、二人三脚がはじまったんですね。
米良:そうですね。2017年に私が病気になったときには、彼が先頭に立って走ってくれたというのもあって、私としては共同創業者という感覚ですね。
ただ、2人だけだとわからないことも増えてきて。それでわからないことを色々な経営者に質問しにいくのですが、その回答を元に決断するのは自分たちなんですよね。私達だけだと、判断するのに時間がかかってしまい、会社にとってベストと言えない状況が続いた時期もありました。
小野:スタートアップは、次々と後戻りできない決断が迫られますよね。
米良:そうですね。ある一定のところまでは試行錯誤しながら経営をしていましたが、病気から復帰してからは、経営チームのなかでも役割分担をして自分自身の強みが活きる領域に集中する経営スタイルに切り替えました。
でもその役割分担だけでは足りないと気づきました。もっと経営の視座を上げていかないと駄目だなと思う出来事が多くて…。経営の経験があるプロにジョインしてもらうことが、必要だったことに気付きました。
小野:プロに頼るって、簡単なようですけれど、創業経営者にとっては、心理的なハードルもありますよね。
米良:ですね。ベンチャーも組織が大きくなってくると、現場を強化していくだけでは足りないことに気づきました。経営の意思決定が「世の中によりよい価値を提供できるかどうか」ということに繋がっていると実感してからは、経営チームがどこにどのようにコミットするのかということを意識して運営しています。
小野:2年前に米良さんと話したときは外から経営陣を取りたいという思いはあるけれど、「今のREADYFORの良さ・らしさを壊したくない」という話をよく聞いていたように思います。
米良:その当時は葛藤がありましたね。
小野:こういうのはタイミングで。経営のビジョンや目線が上がれば、ギャップが生まれてきて、そこを埋めにいくフェーズが、いつかくるだろうなとは思っていました。
米良:ふと気が付いたら、まさにそういう状況になっていました。改めてGCPXの小野さんに相談し始めたのは昨年の年初くらいでしょうか。
小野:そうそう。それで、ちょうどそのタイミングで、私が岡元さんと再会したんですよ。ヤフーを退任したというポストを見つけて。
岡元:「ランチ行こうよ」ってメッセージ頂きましたね。
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ、ディレクター、Head of GCP X 小野壮彦氏
アクセンチュア戦略チームを経て、プロトレードを創業。M&Aにより楽天へ事業譲渡。その後、プロ経営者として、Jリーグ、ヴィッセル神戸、家電ベンチャーアマダナの取締役を歴任。経営人材コンサルティングのエゴンゼンダーに参画し、パートナーとして経営陣へのアセスメント、コーチングおよびヘッドハンティングを実施。近年はZOZOに本部長として参画。プライベートブランド立上げ、および国際展開をリード。2019年10月、グロービス・キャピタル・パートナーズ入社。
小野:実は岡元さんとは不思議な関係で。20代のころは近しい界隈にいて。二人とも起業して。両社とも同じようなタイミングで楽天に買収されて、同僚になって働きましたね。
岡元:部署は違ったけど、それぞれの立場からよく相談事などもしていましたね。小野さんは2年で早々に楽天辞めてイタリアにいっちゃいましたけど(笑)
小野:ただそのあとも岡元さんはネット業界でずっと活躍されていたことは知っていて。
岡元:緩く繋がって、時々会話するような状態でしたね。
小野:そう。だから、最初は何の意図もなく、ただ友達として再会のご飯に行った感じでしたね。つぎは何するの?って聞いたら、「次の世代の人たちにお返ししたい」って。
岡元:そうですね。今の自分があるのも、仕事を通じていろんな人たちから考え方や仕事の仕方というのを受け取ってきて吸収した結果だと思っています。
同じようにその恩を新しい世代に伝えていきたいなと思っています。Pay It Forwardという言葉が好きなんですよね。
小野:そのときの話で覚えているのが、業界もそうだけれども、社会に何かを還元したいという話もされていましたよね。ただ単に金儲けをするためにめちゃくちゃ働くようなことはしたくないと。
岡元:そうですね。きちんと持続可能なアプローチで結果を残す。結果を残すというのは、社会に良い影響を少しでも残していくということが、昔に比べたらできるようになってきている。「そうすべきだ」ということを、感じていた時でしたね。
小野:またそこから、少し時間が空きました。
米良:私が小野さんと色々話していた時に、経営が次のフェーズに入りましたね、と仰っていただいて。改めて外部からの採用を具体的に検討しはじめました。
小野:そこで、あっと閃いて、岡元さんの紹介をしました。
米良:当時私が求めていたハードスキルは、正直違うことを話していた気がします。でも、価値観とか、ソフトな側面が非常にマッチしていると感じました。
岡元:その頃はまだ、どういう働き方をするか、まだはっきり決めていない時期でしたね。
小野:でも、READYFORのことを話したら、乗ってきてくれたんですよ。そこで初めて米良さんに岡元さんを紹介することになったという訳です。米良さんは、岡元さんのどんなところを評価されたのですか?
米良:私を含めて、中のメンバーが経験していないことを経験しているということもあって、今では岡元さんのことを「精神的な支柱」のような存在として捉えている人は、社内でとても多いと思います。
小野:入社したての人に、それはなかなか言えませんね。
米良:はい、そうですね。私が学生起業家だったのと、マネージャーたちも学生インターンから新卒入社したメンバーが多く、これまで手探りでやってきたところがありました。
岡元さんという、業界に精通されている方が入ってきたことによって生まれた「精神的な安心感」というものは非常に大きいなと感じています。
小野:スタートアップは勢いと若さで突っ走ることも大事ですよ。ただ、経験を持った「おじさん」が入ることによる化学反応も、いいもんだなと感じたということですね。
岡元:個人的には、「意思決定は自分に任せろ」みたいな感じは、僕の得意なスタイルではないんです。
みんなが自律的に動いてもらえるように、情報や選択肢の手がかりを提供したり、判断するための考え方を共有したりして、組織や個々人の成長に繋げていきたいなと思っています。
小野:そういう岡元さんのスタイルを感じていたので、READYFORさんにご紹介したいと思いました。
米良:たまに自分の知識や経験を振りかざしてしまうような方もいらっしゃるのですが、岡元さんはソフトですし、なにより貢献意欲が高いだけじゃなくて、謙虚ですよね。
岡元:やっぱり、現場のことを一番知っているのは最前線のメンバーなので、その現場感と私の経験をうまく組み合わせて成長に貢献していくということは強く意識しています。
「脱・年功序列主義」がスタートアップエグゼクティブを増やす鍵
小野:最初のインタビューの時のお互いの印象はどういったものでしたか?
米良:岡元さんは非常にフラットな方だなと思いました。経営として入ってもらう上では、過去の経験等にとらわれず、フラットに話ができ会社の成長に必要なことを考えられる人が必要だと思っていたのでとても相性がいいと思いました。
岡元:私の方は、クラウドファンディングの会社として知っていましたが、米良さんの想いだったり会社として描いているビジョンを伺って、社会の必要なところに想いの乗ったお金を届けると言うことに深く共感したのと、仕事を通じて社会に良い仕組みを提供していきたいと言う自分の思いとも合致して、ぜひ参加させてもらいたいと思いましたね。
小野:私、今回のこのご縁は、日本のスタートアップ業界の中でも、すごく意味のある人事だと思っています。日本とシリコンバレーの差の一つに「スタートアップエグゼクティブ」の層の厚さが随分と違うという面があると思っていまして。
つまり、スタートアップのCxO職を何回か経験しているとか、元起業家が別のスタートアップの役員になるとか、エコシステムの中で様々なステージの会社で、要職を経験していく人材が圧倒的に少ない。
米良:日本でもシリアル・アントレプレナーとか、元起業家が、エンジェル投資家になるという動きは出てきていますけど、確かに岡元さんのように、連続してスタートアップエグゼクティブを担われる人は珍しいんですね。
小野:理由は2つだと思っていまして、1つ目は人材の流動性の低さ、2つ目は年功の慣習ですね。中でも後者はスタートアップエグゼクティブとしてやっていくにあたって非常に重要な要素だと思っていますね。岡元さんは、年上とか下とか、全く気にしなさそうですもんね。
岡元:そうですね。これまでも年齢に関係なく様々な立場や観点からの声を大切にして答えを出していくということを大事にしてきましたし、今後も意識していきたいと思いますね。
更なる事業・組織の成長を目指して
小野:それでは今後の展望を伺いたいです。
米良:READYFORは「資本主義では流れにくい場所にお金を流す」ということにチャレンジしています。特にコロナ禍では、社会に格差が広がっており、更に私たちの役割は増していくと思っています。
岡元さんとやっていきたいところとしては、テクノロジーの力をもっと生かして、細分化されていくニーズに対して、私たちがもっと答えていけるようになりたいですね。
おかげさまでエンジニアが増えていますので、岡元さんの顧客視点と掛け合わせて、より良いプロダクト作りをしていきたいと思っています。
岡元:世の中の動きと連動して、クラウドファンディングの市場が拡大しながら、ニーズは細分化されてきていると思っています。
これまでの蓄積は大事な価値ですが、そのままでいいかというとそうではなく、常にニーズの先を見極めてアップデートしないといけないと感じていますね。「どう進化していくか」について考え続けられる組織文化作りをやっていきたいと思っています。
あとは私個人としては、自分が昔、起業したときの原体験を今でも追いかけていると思います。僕たちが創ったプラットフォームを使ってくれたユーザーがとても喜んでくれたんですよね。こんなに嬉しいことはないと思いました。
インターネット上で仕組みを作ることで、これまで出来なかったことが出来るようになることこそが、自分がこれまで事業をやってこれたモチベーションですし、そういう時代に生まれてきて良かったと感じています。
自分のこれまでのキャリアの集大成として、READYFORの成長に貢献していきたいと思っています。
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