DXビジネスを成功に導く、“4ステップの営業戦略”とは?「社会インフラのDX」を進めるセンシンロボティクスに学ぶ
国内ドローンビジネスの市場規模は、2019年度が1,400億円。2024年には5,000億に至ると予想されている。
そんな成長市場で、業務用ドローンサービスのリーディングカンパニーを目指して着実に歩みを進めているのが、センシンロボティクスだ。投資担当を務めるグロービス・キャピタル・パートナーズ(以下、GCP)のベンチャーキャピタリスト・湯浅エムレ秀和は、同社にユニコーン企業のポテンシャルを見出す。
成長を支えるのは、湯浅が「日本が今後さまざまな業界でデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を迎えていく中で、ひとつのベストプラクティスになる」と評する、ユニークな営業戦略だ。代表取締役社長の北村卓也氏をお招きし、ドローンビジネスに注力している理由から、DXを加速させるビジネスの“横展開術”まで語ってもらった。
“ドローン屋”ではない。センシンロボティクスが目指すのは「社会のDX」
ーー まずは事業内容について教えてください。ドローンビジネスを展開されているのですよね?
株式会社センシンロボティクス 代表取締役社長・北村卓也氏
1977年生、学習院大学卒。日本IBMを経て、2008年より日本マイクロソフトでコンサルティングサービスビジネスの立ち上げ及びサービス営業担当部長としてビジネス拡大をリード、2016年より前職SAPジャパンではビジネスアナリティクス部門にて機械学習を中核としたデータアナリティクス事業を推進。2018年10月よりセンシンロボティクスに参画。Design Thinkingファシリテーター、無人航空従事者試験1級。
北村:うーん……自分たちのことを“ドローン屋”だと思ったことはありません。
ーー どういうことでしょう?
北村:たしかに私たちは、ドローンを制御し、データを収集・分析するためのソフトウェアを開発しています。でも、ドローンはあくまでも、ミッションを達成するための手段にすぎません。
センシンロボティクスのミッションは、「社会をデジタル化し課題解決する」こと。人が担っている社会インフラの保守・点検作業をテクノロジーによって代替する、すなわちDXを推進するための事業を展開しているんです。
ドローンを使わないほうがDXが促進され、かつ安心安全であるならば、使わない提案をさせていただくことも。たとえば、無人地上車両や地上カメラを活用してデータを収集したり、宇宙から撮影した画像を提供しているサービスと連携して設備をモニタリングしたりするケースもあります。
ーー 開発されているソフトウェアでは、具体的にどのような課題を解決されているのですか?
北村:まず、社会インフラの設備点検にまつわる課題。道路や橋梁をはじめとした社会インフラや大規模プラントなど、老朽化が進んでいるにもかかわらず、メンテナンス人員が不足しています。設備点検の仕事は体力的に過酷で、危険も伴う仕事なので、人が集まりにくいんです。ドローンを活用してメンテナンスを効率化することで、点検や整備の不足を補おうとしています。
災害対応で発生する問題も、テクノロジーの力で解決できます。逃げ遅れてしまった人の発見や避難誘導など、人が実行するとかなりの危険が伴う行為をドローンで代替しています。
そして、警備監視のDXも推進しています。人の目が行き届かないエリアを監視することにも、ドローンは適しているんです。
ドローンビジネスは、ソフトウェアが勝負──GCPが投資を決めた理由
ーー 続いて、湯浅さんにお伺いします。センシンロボティクスへの投資を決めた理由を教えていただけますか?
株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター・湯浅エムレ秀和
主に産業変革(デジタルトランスフォーメーション)を目指す国内ITスタートアップへ投資。担当投資先は、GLM(香港上場企業により買収)、New Standard、センシンロボティクス、MFS、フォトシンス、Global Mobility Service、Shippio、CADDi、Matsuri Technologies等。グロービス経営大学院(MBA)講師。ハーバードビジネススクール卒(MBA)。
湯浅:前提として、ドローンは日本社会に欠かせない存在になると考えています。北村さんもおっしゃっていたように、少子高齢化にともなう労働力不足の解決手段になりうると考え、2015年頃からドローンをはじめとするロボティクス領域への投資を検討していたんです。
なかでも、ドローンのソフトウェア領域の企業に可能性を感じていました。ハードウェア領域では、当時すでに、多数のエンジニアを抱えて高性能なドローンをつくっている海外メーカーの存在が大きく、日本発で勝負するには分が悪い。さらに、ハードウェアの種類を問わず活用できる汎用性の高さと、持続可能な競争優位性が生み出しやすい点も、ソフトウェアの強みだと思っていました。
ーー そうした背景があり、ドローンのソフトウェア開発に取り組むセンシンロボティクスにポテンシャルを感じたのですね。
湯浅:おっしゃる通りです。加えて、センシンロボティクスが高いコンサルティング力を備えている点も決め手となりました。
ドローンビジネスは黎明期ゆえに、ソフトウェアを用意しただけで使いこなせるクライアントは少ない。だから開発力は当然のこと、コンサルティング力が高く、丁寧にクライアントに伴走できる会社でなければ事業を成長させられないと考えていました。
“DXのジレンマ”を打ち破る、センシンロボティクス独自の営業戦略とは?
ーー コンサルティング力を兼ね備える、ドローン領域のソフトウェア企業であること。それこそが、投資の決め手だったんですね。
湯浅:実は、センシンロボティクスの大きな魅力が、もう一つあります。営業戦略のユニークさです。北村さんが開発した営業戦略は、これから日本の多くの産業がDXに取り組んでいくなかで、ひとつのベストプラクティスになると思いました。
北村さん、営業戦略についてお話しいただけますか?
北村:ハードルを上げてきますね(笑)。センシンロボティクスの営業プロセスは、「PoC」「実証実験」「サブスクリプション」「展開」の4ステップに分かれています。
ステップ1は「PoC」、すなわち概念実証です。センシンロボティクスのソフトウェアとドローンなどのロボティクス技術を使って何ができるのか、デモンストレーションし、クライアントにビジネス実現性の評価をしていただきます。
ステップ2は「共同プロジェクト」。この期間で、クライアントと会話を重ねながら、最適なサービスの形を模索していきます。ドローンの具体的な活用方法から、安全基準、運用マニュアルの整理、収集したデータを記す台帳レポート、それらを踏まえた使い勝手の良いアプリケーションの開発などを実施していきます。
ステップ3は「サブスクリプションサービス」。実証実験を終えて、共同プロジェクトの中でサービス形態が固まったら、ハードウェアとソフトウェアを納品し、月額制で料金をいただく形式に移行します。
ステップ4は「展開」、すなわち同業他社への営業です。共通項の多い業界内であれば、業務フローや抱えている課題が似通っていることも少なくありません。ひとつのプロジェクトを通じて構築した課題解決スキームを、横展開していきます。たとえば、ある企業のために構築した構造物点検の効率化スキームを、エネルギー産業全体に横展開させたりしています。
湯浅:業界をまたいで展開するケースもありますよね。電気事業者向けに構築した、ドローンによる鉄塔点検の効率化技術を、石油タンクの点検に応用したり。僕はこの営業戦略に大きな期待を寄せており、“DXのジレンマ”を打ち破る可能性があると思っています。
“DXのジレンマ”とは、業界特化型サービスをつくる際に起こるものです。それぞれの業界に特化すればするほど、スケーラビリティがなくなってしまう。だからといって、汎用性を求めてしまうと業界ニーズを満たしきれない、というジレンマです。
北村さんの営業戦略は、これを解消しています。ステップ1〜2で深い業界ニーズを捉えたプロダクトつくり、ステップ3~4でスケーラビリティを担保しています。また、そもそもステップ1~2についても、ステップ4まで進むことが見込めないニッチすぎる案件は、そもそも取りにいかないようにしている。
産業とクライアント企業に深く入り込んでいくことと、ビジネスとしてのスケーラビリティの追求。両者のバランスが取れている点が、センシンロボティクスの強さだと思います。
課題先進国・日本で培った知見を、世界中に“展開”する
ーー 独自の営業戦略を武器に、今後はどのように事業を展開していく予定ですか?
北村:まず成し遂げたいのは、ドローンでの撮影や測量を自動化すること。ユーザーがソフトウェア上でワンクリックするだけで、すべての作業が自動で完了するのが理想ですね。
また、データ活用にも力を入れていきたい。ドローンが撮影・測量したデータには、高い価値がある。業界を問わず、数多くの構造物や建造物に関するデータを活用し、倒壊の危険を予測してアラートを出してくれるシステムをつくり上げたいです。
ゆくゆくは、クライアントのサプライチェーン管理システムとセンシンロボティクスが収集するデータを接続していきたい。たとえば、ドローンが設備のヒビを検知したら、自動で工事業者に連絡が入り、さらには交換すべき資材を検知し、自動で発注される仕組みを構築していきたいです。
湯浅:センシンロボティクスは、事業規模が前年比3.5倍に拡大しており、今まさに成長軌道に乗っていると思います。ここで一気に事業を加速させ、日本の社会インフラのDXを進めていくことを期待しています。
ゆくゆくは、国内に留まらず、海外でも存在感を発揮していくポテンシャルがあると思います。世界中を見渡しても、日本ほどたくさんのインフラがあり、少子高齢化で人手が足りていないマーケットはそう多くない。日本で磨き上げた技術やサービスを使って、世界中の社会インフラを変えられる可能性がある。ぜひ、世界を驚かせてほしいですね。
ーー そうした未来を実現するため、どんな人に仲間になってほしいですか?
北村:きわめて成長志向が強い人に仲間になってほしいです。センシンロボティクスが取り組んでいるのは、未開の領域。誰も経験したことのない課題にぶち当たっても、「できません」「やれません」と言わず、クライアントや事業のために思考し、前に進もうとする仲間が必要です。
そして、やはりテクノロジーが好きな人に仲間になってもらいたいですね。繰り返しにはなりますが、ドローンはあくまでもツールにすぎません。テクノロジーで世の中を変えていく挑戦を楽しめる人にとって、とてもエキサイティングな環境だと思います。
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