【高宮慎一】知られざるVCのビジネスモデル、その全貌!
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VCのオシゴトにおける二面性
通常、スタートアップ界隈で「ベンチャーキャピタル(VC)」というと、スタートアップに資金を供給し、事業の成長を支援する“スタートアップの伴走者”という面が前面に見えてきます。それはそれで正しいのですが、VCというイキモノを正確に理解しようとすると、VCが2つの側面を持っていることを理解する必要があります。
VCには、“スタートアップの伴走者”という面に加えて、投資家の資金の“ファンド運用受託者”としての側面があります。
ファンド運用受託者としてのVC
VCの日々の活動という意味では、投資先候補の探索、投資実行、投資先の支援など、スタートアップ界隈のみなさんに目につきやすい部分が多くを占めています。一方で、VCの収益モデルという意味では、ファンド運用受託者の部分からきている部分が多くなっています。こちらの側面では「VCのファンドに投資している投資家」となるので、スタートアップ業界には見えにくくなっています。
まず、VCのファンドのほとんどは、外部の投資家から集めた資金からなっています。なので、“運用受託者”となるわけです。ちなみに、外部の投資家とインセンティブをひとつにするため、(サラリーマン型でない、いわゆる独立系VCなどは)運用責任者、すなわち“パートナー”には、個人の手金を投資するを求められます。
グローバルの標準でいうと通常ファンド総額の1%以上のことが多いです。100億なら1億、150億なら1.5億なので、パートナー全員での合計金額でとは言え、個人としては決して小さな額ではありません。実は、並みの起業家より個人のファイナンシャルリスクをとっている形になっています。このように外部投資家と運用責任者が一蓮托生となり、運用する資金の最大化を図る仕組みになっています。
収益モデルという意味では、VCにはよく“Two-Twenty(2–20)”といわれる、管理報酬と成功報酬の2つの収入があります。管理報酬は文字通り、投資家の資金を預かり運用するための手数料です。投資信託の信託手数料と同じ構造になります。
前述の投資家とファンド運営者のインセンティブを1つにするという視点では、管理報酬はファンド運営者がファンドのリターンを最大化することを促しません。むしろ管理報酬が大きくなりすぎると、不労所得になり、逆インセンティブになりかねません。なので、基本思想としては、管理報酬はVCが、ファンドを運用するのに必要な費用を賄うのに必要最低限となるのが理想的です。結果、(ファンド規模にもよりますが)今の業界の相場として2%前後(“Two-Twenty”の“2”)となります。
必要な費用をカバーする最低限の報酬だけでは、運用責任者がファンド全体のリターンを最大化しようというインセンティブがわきません。そこで設定されているのが、成果報酬です。
成果報酬は、投資家に1倍返した後の超過リターンの、通常20%(“Two-Twenty”の“20”)となっていることが多いです。
たとえば、10年のファンド運用期間を経て、100億のファンドを2倍の200億にしたら、100億の20%、20億をファンド運営者全員で山分けできます。ちなみに、この2倍という数字は、リターンにシビアな機関投資家がVCに求めるリターンが2倍程度以上なので、ヒットファンドを出すと、10年間を経てファンド運用者全員で20億、5人で運用しているとすると一人4億となります。起業家が成功してIPO(ファンドを2倍というのはこれくらいの成功感のイメージ)する程ではありませんが、経済的リターンとしては、ファンド運営者にファンド全体のリターンを最大化するインセンティブとなるわけです。
二面性のマネージ
このようにVCには、“スタートアップの伴走者”=出資する側、“ファンド運用受託者”=出資される側という二面性があり、お客様が2人いるようなものです。
時にはその二人のお客さんの利益がコンフリクトする場合もあります。投資先のスタートアップ、ファンドへの投資家、僕たちVC自身も含め、一部の部分最適に偏らず、いかに三方良しのWin-Win-Winの全体最適を図るかがVCのスタンスとしては重要になります。まぁ、これはどんなビジネスでも共通の当たり前の話かもしれません。
たとえば普通の製造業でも株主、従業員、顧客、チャネル、サプライヤーなど複数ステークホルダーがいる場合。ミクロで部分的に切り出してしまうと、顧客への価格を値下げすると利益が減り、株主価値が減ってしまいます。マクロでもっと全体感を見て、値下げすると短期的には利益は下がるが、顧客のロイヤリティがあがり、従業員のやる気も高まる。そして、長期的には株主価値も増える…みたいな、全体最適かつ持続的なモデルにするかが重要なのと一緒ですね。
VCの後ろにいる「投資家たち」
VCのファンドに投資をする投資家が背後にいることがわかりましたが、彼らはどんなプレーヤーでしょうか。VCの挙動を理解するためには、その背後にいる投資家を理解しておくとよいでしょう。
機関投資家
年金基金、銀行、生損保、またその特性からはファンド・オブ・ファンズ(fund of funds=ファンドに投資するファンド)もこのカテゴリーに入れてもよいでしょう。数千億円、場合によっては兆の桁で資金を運用しており、プロの資金運用のマネジャのもと、ファイナンス理論に合致した非常に洗練された投資をします。
シンプルにリターンを求めているので、VCがリターンを出している限りにおいては、余計なことはあまり言ってきません。なので、VCやプライベート・エクイティの世界では、機関投資家は筋の良い投資家とされ、彼らのお金を預かることが、ファンド運用者としてお墨付きをもらっているかのような1つのステータスとなっています。
特に年金基金は、シリコン・バレーのVCの勃興が年金で支えられてきた経緯や、親世代の年金の資金で子ども世代の新しい産業を創るというストーリーが美しいことで、もっとも望ましい投資家の一つとも見られています。
また、VCとして100億円以上程度のファンドを組成しようとすると、どうしても10億円以上ファンドに投資してくれる投資家が必要となるので、機関投資家からの資金調達が必要となります。VCが100億円以上のファンドを組成しようとすると、機関投資家に認められるに十分な、過去ファンドのトラックレコード、仕組み化・組織化された運営体制が必要となります。
事業会社
これは、投資以外の本業を持っている大企業が、自社との何らかのシナジーも求めてVCに投資するパターンです。通常、純粋に金融リターンを求めてVCに投資することは稀です(オーナー企業的な所が“財テク”ようなノリで投資する場合は別ですが)。リターンに対しては、機関投資家ほど厳しくなく、場合によってはトントンで程度良いという見方をすることも多々あります。
一方で、本業への貢献、新規事業のネタなど、自社へのシナジーを重視する傾向が高く、投資先やそれ以外のベンチャーの情報、ファンド業務外でのコンサル的になサービスを要求する場合もあります。ベンチャーに事業会社が出資するのと同じ構造で、投資される側にもシナジーがある一方、大企業の側の要求に振り回されてしまうリスクもあり、諸刃の剣になる場合もあるという認識も必要です。
ファミリーオフィス
財を成した個人が、その規模が大きく、また運用の歴史が長くなるにつれ、組織だって資産運用を始め、それ専業の組織を立ちあげたのがファミリーオフィスです。
資産規模は、数十億~数百億円、大きいところだと数千億にもなります。よって、VCへの投資規模としても、数億円から、大きなファミリーオフィスになると数十億円になることもあります。資産運用は、機関投資家で運用を行っていたようなプロのマネジャがやっていることが殆どなので、その挙動は機関投資家と似ています。
しかし、ファミリー全体やその当主の運用方針の影響が大きく、場合によってはベンチャーが好きといったような“好み”のレベルの話も出てきます。ベンチャー好きのファミリーオフィスは、明確に存在し、その点、VCと相性のよい投資家となっています。
個人
ベンチャーで成功したなど、財をなした個人がVCに投資をしているケースも多く見られます。ベンチャーに直接投資をするエンジェルのような人が、ファンドにも投資をしているイメージです。まさにベンチャーがエンジェルにアプローチするのと同様、その人そのものを説得すればよいだけですし、投資を受けた後も余計なことは言ってきません。その個人の資産規模にもよりますが、多くは数千万~数億円の規模での出資規模なります。
僕らグロービス・キャピタル・パートナーズの投資家は、ほとんどが機関投資家で、一部ファミリーオフィスや出資規模が大きい個人が入っています。なので、投資家が僕らに求めるものとしては、リターンやプロが納得するような説明責任などに関してはシビアですが、余計な情報の要求はありませんし、投資家と投資先との競合関係などコンフリクトもありません。
一方で、たとえば、事業会社が投資家の殆どのVCがあったとすると、逆にリターンへの見方は緩いですが、投資先の情報や協業に対する要求は多いかもしれません。このように、ファンドがどのような投資家によって形成されているかによって、VCに何が求められていて、その結果としてVCから投資先に何を求められるかはある程度変わってきます。ターゲットとしているVCがどんな投資家の成り立ちで、だからどのような挙動が予想されるかは想定しておくとよいでしょうし、また直接VCに聞くのも良いです。
Entrepreneur behind the Entrepreneurs
VCの“スタートアップの伴走者”、“ファンド運用受託者”の側面について話をしてきましたが、僕は実はVCには3つ目の側面があると考えています。
米国では、起業家以上に起業家マインドを持って、起業家支援するという意味を込めて、VCのことを“Entrepreneur behind the Entrepreneurs(起業家の背後にいる起業家)”という言い方もします。日本でも、資金提供だけでなく、投資先への支援に力を入れているVCには当てはまるでしょう。
日本の場合だと、スタートアップ業界もさることながら、VC業界はさらに歴史が短く、まだ第二世代といった感じです。VC自体がまだまだスタートアップであり、VCを運営することは起業家的なのです。僕自身もEntrepreneur behind the Entrepreneursとして、起業家としての大志とハングリーさをもって、スタートアップ業界を盛り上げ、VC業界も立ち上げていければと思っています。
[文・高宮慎一]
ベンチャーキャピタリスト。戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトルにて事業戦略やイノベーション戦略立案などをチームリーダーとして主導した後、グロービス・キャピタル・パートナーズに参画。コンシューマ・インターネット領域の投資を担当する。主な支援先には、アイスタイル、ナナピ、カヤック、ピクスタ、メルカリ、ランサーズなど。最近注目しているのは魚釣り、金魚すくい。