「野本さんは死ぬまでにこの世に何を残したいんですか？」

会食の席で起業家から不意に投げかけられた問いでした。一瞬戸惑い、反射的に口から出た言葉が「コンセプトを残したい」というものでした。

確かに、何か新しいものをゼロから創り出すというよりも、「すでに存在するもの」を新しい視点で捉えたり、編集したりして、結晶化することに私は知的興奮を覚えます。現代史研究家だった祖父から受け継いだ特性なのかもしれません。書籍を執筆するのは、自分の整理学を世に残したいという欲望ゆえです。写真を撮るのも、自分なりの視点や切り口で被写体の魅力を提示したいからです。

新しいコンセプトや切り口が導入されると、人間の認知が変わり、最終的には世界そのものも変わります。歴史的には「人権」というコンセプトが世界を変えました。身近な例では「スタートアップ」というコンセプトが産業の新陳代謝を後押ししています。仕事人生において起業家の皆さんと一緒に、「DX」や「SaaS」、ひいては「スタートアップ」に匹敵するような新しいコンセプトやジャンルを発見できたら、これ以上ない喜びです。

ちなみに、冒頭の起業家とは「コンセプトを残す」ことについて議論が盛り上がり、後日、投資させていただくことができました。